タクロウジャシン

高円寺の片隅でのびのびと、浮かれたり、淀んだり、ゆるんだりして生きこます。

直径5センチ、長さ30センチくらいの円柱の木の棒
片方の端は箸の先のように尖っていて、もう片方の箸には丸い木が取り付けてある。
そんな不可思議な木製のソレが4階毛糸売り場の隅にある、編み棒コーナーでもいっちゃん隅っこの鉄の棚の上に適当にごろりと放置されてあった。

習慣とは怖いもので、TPOをわきまえず想ったことをすぐ口に出てしまう自分は、この木の棒を指差して「みてこれ ちんこみてー あはははは」という29。
同行していたカオとユイに「あんたこういう場所でそういうことを声に出して言うな」と諭される29。
確かに不覚だった、ここは家でもなければ赤提灯の下でもない、むしろそういうシチュエーションからかけ離れている場所
布、糸、毛糸、針通しからチャイナドレスの生地まで、服飾用品ならおおかた揃う吉祥寺ユザワヤ4階。
客層は「お洋服つくるのが趣味です」みたいな、「小学生の頃から手芸をやっています」的な、いわばまぁお嬢さんだよな。うん。清楚な感じ、ハイソな感じ。
もしくは服飾系の学校に通っています。だっせやつは話しかけんな。オーラをだしている人々。
この時期なのにまだサンダルで、でっかい編み棒みつけて嬉しそうにちんこみてーって喜んでいるのは俺くらい。場違い。
せめてドラキュラを完璧に殺す為に胸に打ち込む杭のようだ。にしとけば良かった。
どっち先に行こうか少し迷ったけど、やっぱちんぽいっちゃった。業だな業。

「ところでタクロウ、買う毛糸は決まったの?」
「まぁだいたいね。ベースカラーと刺し色は決まった。だがしかしアクセントにかけんだよね」
「アクセントって?」
「銀色の糸とふわっふわしたファー的なアレ」
「いったいどんなマフラーになるのよ」
「あと目玉も欲しいよね」
「目玉?」
「テディーベアとかの目玉。おっきめのやつ。それをボタンとして縫い付けたいのさ!」
「マフラーに?」
マフラーニ
「なんかちょっと見てみたい」
「でしょ?かなり烏っぽくなると思う」とカオと話していると「この毛糸なんかいいんじゃない?」てユイが糸を持ってくる。ほほぅつって俺はソレをみる。

小1時間糸を探してようやく必要素材が集まりレジにて購入
「いくらだった?」
「…3000円」
「思ったより高くない?」
「高い。2000円くらいだったはずなのに、1000円も多かった。ファーが高いんだよ」
「あらら」
「3000円あったらそこそこのマフラーは買えるよな?」
「買えるねー」
「でも、まぁいっか。そこそこのマフラーは買えるとしても俺の欲しいマフラーは買えない、つーか売っていない!そう考えるとむしろ妥当な値段だ!」
「そうかもね」
「よし、もう後戻りはできない、編むぞ」と半ば強引に自分を説得して、3人電車のにって中野へ
スーパーで買い物をしてカオん家で鍋、酒、編み物。





【 必要素材 】

大烏の柔毛×2 大烏の黒毛×1 大烏[亜種]の柔毛×1 光蛇の上皮×1 ヒトトナカイの顎髭×1





【 卑猥に動く編み棒5本 】

こうやって糸を絡めて編んでいきます





【 編み編み 】

わずか10分でこの長さ。確実に上達している。






【 リリアン状になる 】



茶を飲みタバコを喫み、音楽や漫談を聞きながらちゃくちゃくと編んでいくこの作業、確実に性に合っている。

 






【白いシャシン】


気がつくと ほら 自分の影や朽ちかけた壁に向かってシャッターを押している
廃屋や、枯れ葉に埋まって溶けかけている三輪車、おおきめの発泡スチロールに植わった勢いのある雑草、滑空する烏、赤錆の浮いた工場の壁、はがれたコンクリート、無断で行われている家庭菜園、公園の薮に放り投げられたファンタの瓶、見ていると和む

このどこに安寧を感じているのかわからない
ただ、気がつくと、見向きもされず、意識すらされず朽ちている物にレンズを向けている
そうやって自分の性癖がややこしくなっている事実ばかりが写し出されていく
いよいよ自分はどうなりたいのかが白々しくかすんでいるので明日が見えません。知りません。
 
 




【 蜻蜓 】


至極寒いのでコンビニに立ち寄って手袋を買う。

青いゴムのぶつぶつが指先までびっちり張りついた手袋
段ボールやなんかを50メートル以上運ぶのに力を発揮しそうな手袋
198円にしては丈夫に作られている手袋。それを買う。

コンビニの前で包装紙を破り、破った包装紙をコンビニ前に設置されましゴミ箱へ捨てた後、さっそく軍手、いやさ手袋をはめて帰宅。
布一枚を手に覆っただけで辛くない。これしきのことで解決する悩み。
おかげでもう凍てつく夜風はもう、もう寒くない。

指先にゴムが張りついているから、ipod中央のくりくりも容易にくりくりできると思いきや、全然上手くいかない。
思いのほかうまくくりくりできぬ現実に直面しつつも俺、
ちっさなことからおっきなことまで多岐に渡り思い通りにいかないことにすっかり馴れている自分は、解決策として、唾液で指先を湿らせて、優しくしかし確実にくりくりと卑猥に淫猥にボリュウムを上げるのです。
そして勢い余って大音量になってびくっとするのです。夜道で。
暗闇の向こうでは、箍の外れた恋人同士が青空セックスに励んでいそうな、そんな夜道で。
  
 

 
 




【 或る晴れた日のこと 】


「今宵は新月だから新しいことをはじめよう」というつぶやきを2つ見たので、
触発された自分も同じく新しいことやろうをつって、
いつもなら高円寺駅から総武線に乗るルートで出社するところを、井の頭線に乗って渋谷へ行くルートに変更。

自転車にまたがり駅に向かう初漕ぎから真反対。世界が変わる。

高円寺を背に逆へ逆へと進むうち、このまま俺は仕事をぶっちぎって知り人もおらぬインドへ行く。
季節外れのあじさいを見に鎌倉へ向かって浜辺で桜色の貝を拾う。
丸善の奥まった書物置き場のうずたかく積み重なった埃まみれの書物の突端に、レモンを置いてそそくさと店を後にする基次郎の気持ちにも似た、どこかこそばゆく、えも言われぬ罪悪感に苛まれるまま自転車に乗って見知らぬ駅に着いたのです。

そこで130円の切符を買って私は私鉄に乗りました。JRのそれと違って車幅が狭い。

帰り、降り馴れぬ駅で降りてとぼとぼと駐輪場まで向かう
この駅のある街は高円寺と違いこじんまりとしていて開いている商店がない
人通りのない夜道、ぽつぽつと光るは街灯。
雨で滲んだアスファルトにその光がぼんやりと漂っている。

かじかむ手をかばいながら帰る夜道
まったく知らぬ土地へ引っ越してきてしまったなぁと呟いてみる
その呟きを聞いて自分は全くその通りだなと納得する
一瞬取り返しのつかないことをしてしまった感じ
夜道が暗い、光がない、新月だからか。雨雲だからか。

ドラマチックなことなど何ひとつ起こらず帰宅。
  




【 白塗りの影 】


中央に白塗りのおかめが配置された熊手を掲げて出社
二日酔いのまま金曜日の仕事を終え、エレベータを待つ自分の顔。

今週末はめずらかな場所へいき、ひさびさに会う二親等と酒を飲む。

 

| main | next »